[本] 『教師のための「教える技術」』がステキ

向後千春先生『教師のための「教える技術」』を購入、拝読。


1. 概要

向後先生は、表紙にあるように、『教師力 = 3つの能力』としている:

  • プロとしての教え方を究める教える技術
  • インストラクショナルデザインが拓く授業デザイン力
  • アドラー心理学に基づくクラス運営力
3つのそれぞれの能力に関して、下位項目の説明がなされている (冒頭のDIAGRAMが分かりやすい) 。


2. 感想

まず、なんと言っても分かりやすい。その原因の一つが文の簡潔さ。例を挙げよう:

しかし、かかる時間は違っても、そのステップをこなすために必要な時間が与えられれば「誰でもできるように」なります。これは重要なことです。逆に言えば、「その人に必要な時間が与えられれば、どんなことでもできるようになる」ということなのです。これを提唱者の名前をとって、「キャロルの時間モデル」と呼びます。(p.46)
知識を整理することを「体制化」と呼びます。子どもは、新しい知識に出会うたびに、自分なりに体制化をして、すでに持っている知識に組み込んでいきます。しかし、それは必ずしも適切なものとは限りません。そこで、新しい知識がある程度出てきたら、それを適切な形で体制化して、提示するのが教師の仕事になります。(p.72)
文脈を無視した引用だが、一読してスッキリ理解できるはずだ。当然、引用部分の前には注意深く配置されたスモールステップがあり、後ろには例示やまとめがある。つまり、もっとスッキリ理解できる。

簡潔であるが、不足感を感じない。この作文技術をぜひ見習いたい。

感想の二点目。物足りないと感じる部分がある。例えば、「取り組んだことを振り返る技能 (p.114~)」では、再帰属訓練に関してもう少し説明が欲しい。

しかしながら、対象とする読者が学校の教師 (日本の学校の教師は労働時間が長過ぎ、自己研修の時間がないことで有名) であることをふまえると、物足りないくらいがちょうどよいのかもしれない。また、そもそも「おわりに (p.190)」にあるように「教えることを仕事としている人が、全体としてどのような技能を身につけなければいけないかということについて、その全体像をうまくまとめ」てあるのだから、「物足りない」は筋違いである。

いや、、、何かが違う気がする。「物足りない」と言っても、不満なのではない。むしろ、前向きで明るい気持ちである。
...なるほど、分かった。「物足りない」の意味には2種類あるのだ:

  1. 「ぜんぜん書いてない。手抜きだ。 (否定的な物足りない)」
  2. 「なるほど。もっと広く・深く知りたい。(肯定的な物足りない)」
私の感じたのは「もっと知りたい」の肯定的な物足りなさだ。これは、向後先生によって「やる気」をひき出された、ということだ。

(もっと知りたくなったので、早速注文した『インストラクショナルデザインの原理』が、明日到着予定。)

おっと、予定よりも、長くなってしまった。「物足りなさ」に関して横滑りしてしまった。まだまだ書きたいことがあるが、ここで止めておく。とにかくいろんな人にお勧めしたい一冊。


参考
向後千春 (2014). 『教師のための「教える技術」』 明治図書出版

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